Trader Joe’sとは
Trader Joe’sは、505店舗の店舗を米国42州に持ち、1兆3700億円程度の売り上げを上げている人気の老舗オーガニックスーパーです。
名前「貿易商ジョーの店」からも推測できるように、食品を中心に、世界中から、集めてきた商品を販売しています。
80%の商品がプライベート・ブランド(PB)商品で、品質は間違いなく、さらに面白いもの、掘り出しものが見つかる店として、熱狂的なファンに支持されています。
人気のオーガニックスーパーであるWhole Foods Market(1兆6500億円)とよく比べられます。ただ、店舗面積当たりの売り上げはTrader Joe'sがWhole Foods Marketの2倍ともいわれており、今回は面白い戦略をとっているTrader Joe’sのビジネスモデルを見ていきたいと思います。
日本にも熱烈なTrader Joe’sファンがいるようで、Trader Joe’sのエコバックや商品が楽天やBUYMAで販売されていました。
私駐在中も米国で週に一回は、近所のTrader Joe’sで、サラダや菓子パンを何気なく買い物をしていましたが、Trader Joe’sの凄さに気づいたのはコロナパンデミックの初期時でした。
コロナパンデミックが始まる前に、食料が枯渇するという情報が流れた時期があり、その際に、Trader Joe’sとTARGET(同じくスーパー)が隣り合った施設の前を通る機会があったのですが、Trader Joe’sは開店前から行列で100人程度並んでおり、TARGET(同じくスーパー)には一人も並んでいないという現象にであったのです。
Trader Joe’sにはどんな秘密が隠されているのでしょうか。
Trader Joe’sの歴史
実は、ジョー(創業者Joe Coulombe)は初めからTrader Joe’sを設立したわけではありませんでした。
彼は1958年ロサンゼルス周辺でコンビニエンスチェーン「Pronto Markets」を引き継ぎ運営を始めたのですが、すぐに、セブンイレブンの脅威にさらされることになります。
そこで、ジョーは、当時読んでいた本「White Shadows in the South Seas」とディズニージャングルトリップに着想を得て南国風オーガニックスーパーへ舵をきったことがTrader Joe’sの始まりでした。
こういう発想もありなのかと思わず吹き出してしまいました。面白いですよね。
ちなみに、ジョーさんは1979年にアルディ・ノルド(Aldi Nord)を運営するテオ・アルブレヒト氏(弟のほう)にトレーダージョーズを販売しています。
ALDI(アルディ)は、世界中に9000店舗以上で展開するドイツに基盤を置く超有名なディスカウントストアチェーンです。
ただ、売却後も経営はジョーが引き続き行い、PB戦略と家族経営スタイルを店舗に浸透させ「安いけれど、楽しくておしゃれ」な店を確立していきました。
ジョー引退後も、成長を続け、2018年には「米国消費者に人気のプライベートブランド」でトップを獲得、2019年には「店内買い物満足度」ランキングでも総合で1位に輝いています。
Trader Joe’sのビジネスモデル
Trader Joe’sのコアの戦略は「PB戦略」と「家族経営スタイル」です。これだけを聞くと「なんだ、そんなことか」と思えてしまいます。
ただ、ここで考えるべきなのは、「スーパーに商品を卸すメーカーが嫌がるはずのPB商品を、なぜ店舗の商品の80%に及ぶまでの量を供給してくれるのか」と「顧客のブランドロイヤルティを高める家族経営スタイルという曖昧な概念をどのように店舗のコンセプトとして落とし込んでいったのか」にあります。
なので、この2つのコアを体現している「7つのNO」を確認するなかで、その秘密を解き明かしていきましょう。
NO 宣伝広告
Trader Joe’sでは、価格を表記したチラシは一切配布していません。勿論電子公告もしていません。
彼らが自主的に、新規顧客にリーチする手段は二つしかなく、月に一回出すフライヤー(雑誌に近い)または、ホームページしかありません。
しかも、フライヤーには価格の記載はなく、新商品のおすすめポイントや、商品にまつわるエピソードなどが記載されています。
なので、新規顧客を獲得する手段としては非常に弱く、店舗をみつけて入ってもらうか、口コミで顧客を増やしています。
では、Trader Joe’sはマーケティングを一切やらないかというとそうではありません。
彼らは宣伝広告をほとんどやらないかわりに、試食にお金をつぎ込んでおり、マーケティングの最大経費は試食費用となっているようです。
試食を通して、顧客と対話することで、フィードバックを得て、商品やサービスの改善へと繋げているのです。
もし、味見をしたい商品があれば、スタッフが袋を開けて試食させてくれるというので、店全体が試食コーナーといえるでしょう。
また、これにより、顔なじみ客とのつながりも強化でき、地場に根差し、展開する家族経営スタイルの強みを最大限まで生かしています。
NO ディスカウント
Every Day Low Priceを謳っており、基本的に値引きはしません。
そのため、商品そのものの実力が試されることになり、消費者が本当に欲しいものを見極めやすくなります。
また、スタッフも価格の書き換えやシステムの更新などという無駄な作業をしなくてよくなり、より顧客とのコミュニケーションに対して時間を割くことができるようになります。
NO 棚割り協賛金
一般的に、メーカーは、棚スペースを確保するために、協賛金などの形で多額のお金をスーパーに支払い、自社製品を棚に置いてもらっています。
なので、基本的に棚の獲得競争では、資本力のある大手メーカーが勝つことになり、その結果、どのスーパーでも大体同じ大手の商品が並ぶことになります。
一方、Trader Joe’sは、棚代などを徴収しません。その結果、いままで棚のスペースが取れなかった中小メーカーがこぞって集まり、その競争の中で、仕入れ値をかなり下げることができているようです。
中小メーカーにとっては、Trader Joe’sのPB商品としてでも、今まで取れなかった小売店舗での販売権を手に入れることは魅力的に映ったでしょう。
そして、中間の卸も通さず、メーカーとやり取りするため、中間コストもさらに削減しています。
さらに、メーカーとのやり取りでは、早期一括大量購入、場合によっては現金払いによって、もう一段仕入れ値を下げる努力をしています。
それが、Amazonやウォルマートからパイを奪える要因であり、PB商品を高速開発し続けられる原動力にもなっています。
実際のところ、私が実際にロサンゼルスで利用した現地感でいうと、必ずしも彼らの価格は最安値ではなく、現地スーパーのRalphsなどと比べるとすこし割高感がありましたので、決して低価格を押しているわけではありません。
商品の質に対しての価格感がかなりお手頃な店舗であることは間違いありません。
NO 売れない商品
Trader Joe’sは、売れない商品は即撤去される恐ろしい場所でもあります。
協賛金をもらっていないため、メーカーとの関係性を気にせず、売れない商品をがんがん販売中止にできます。
逆に、なじみ客にとっては、商品の回転が早いので、いつも何か新しいものを店舗で見つけることができ、宝探しのようなわくわくを来店のたびに得ることができます。
NO 店内加工
一般的なスーパーでは、肉や魚を店内加工しますが、Trader Joe’sでは、来店客にブランド価値を提供しない加工作業は一切しておらず、仕入れ時に全て加工したものを仕入れることにしています。これもスタッフの効率活用に繋がっています。
NO ネットショップ
多くの企業がオンラインへの対応を進めている中で、Trader Joe’sはネットショップには進出しない意向を表明しています。
その理由は、店舗での交流までを含めて彼らのブランドなのであって、その価値が損なわれるサービスはしないということでした。
ここまで徹底するのかと心底感心しました。
NO 顧客データ
カードによる顧客情報の取得を含めたデジタルでの情報収集も行っていません。そのような行為は、顧客に対して、失礼だし、データを得なくても、日々そのような情報はスタッフが得ているからだといいます。
PB戦略
上記の7つのNOからもわかるように、商品棚の獲得競争を、協賛費という棚に対する固定費ではなく、単純な商品の販売数という変動費に置き換えることで、サプライヤー側の参入数を増大させることを可能にしました。
その結果、Trader Joe’sの要求が通りやすくなり、PB商品を店内の約80%を占めるまで扱うことができるようになったのです。
商品としては、リーズナブルな価格で、人口着色料、香料、防腐剤などの有害物質が含まれていない、クオリティの高い商品を提供しており、3,200SKU(ストック・キーピング・ユニット)を取り扱っています。
徹底した家族経営スタイル
顧客とのコミュニケーションを経営の主軸に据えているため、「コミュニケーションを通してブランド価値を提供するスタッフ」と「コミュニケーションをしやすい環境づくり」に力を入れています。
スタッフは顧客とのコミュニケーションを通して価値を提供することを求められるため、商品知識や店舗知識についてかなり厳しく訓練される一方で、商品加工や価格表示の変更などの雑務はなるべく発生しないように工夫されています。
Trader Joe’sは、利益の成長よりも、店舗のブランドを優先しており、新規店舗に必要な店長やスタッフがそろわなければ、出店しないとまで宣言しています。
店内には、セルフレジも置かず、すべてスタッフとの直接対面での会計にしており、顧客との会話を妨げないようにレジの音量さえも調整しているとのことです。
また、店内の手書きのPOPや店舗の狭さもコミュニケーションを取りやすい雰囲気を出すために計算されて作られています。
ここまでこだわって「家族経営スタイル」を確立していたのです。彼の理念を肯定するように、2018年のPricewaterhouseCoopersによる調査では、好感が持てる購買体験は、ブランドロイヤリティを高め、消費者の支払額を16%高めることが発表されています。
Amazonやウォルマート、コストコなどが猛威を振るう中、このポイントこそが中小小売店の活路のように感じています。
Trader Joe’sの課題
勿論、Trader Joe’sも完璧ではありません。
環境問題の絡みもあり、2018年からプラスチックパックの使い過ぎで非難されています。そのため、2019年に約300万キログラムのプラスチックパックをなくしています。
また、2016年には、スタッフがマネージャーによる苛烈な扱いに対して非難の声をあげるなど、スタッフ側の労働に対する問題も発生しています。
スタッフ教育はTrader Joe’sのコアの部分でもあるので、ここは細心の注意を払って今後も取り扱っていかなければならない部分です。