起業時の事業計画書
起業時に資金調達をする際、調達先からよく求められる資料の一つとして事業計画書(創業計画書)があります。
特に、唯一起業家が融資を頼れる銀行である日本政策金融公庫では、事業計画書の提出が必須となっており、そのテンプレートも公開されています。
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ベンチャーキャピタルやクラウドファンディングを利用する際でも、特に指定がなければ公庫のフォーマットを使用できるので、最初に事業計画を作る場合は公庫のテンプレートを基に作られることをお勧めします。
ちなみに、公庫のテンプレートを利用すると、各項目への記載内容が少なくなってしまうので、項目の内容を深掘りしたものをワードで準備しておきましょう。
公庫のエクセルテンプレートを項目内容のまとめ版として用意し、さらに詳しい項目内容をワード版で作成すると、十分なボリュームで、かつ、わかりやすさも考慮されていて良いと思います。
それでは各項目の記述内容についてみていきましょう。
日本政策金融公庫の事業計画書
起業の動機
公庫の担当者の方も、面接するにあたって、多くの起業家に過去事業経験がないことはわかっています。
それでも、「この人なら、うまくやってくれるかもしれない。応援したい。」と担当者に思わせることができれば、融資にプラスに働きます。
これは、担当者の気持ちを動かせたからプラスなのではなく、面接者の品定めをし、マイナスポイントを探る担当者の気持ちさえ、動かせたのだから、今後のビジネスで出会う新たな取引先や顧客の気持ちも動かせるだろうということも含めての評価です。
だから、担当者に対するプレゼンというより、今後のまだ見ぬ顧客や取引先、投資家などを意識して、プレゼンされることをお勧めします。
そうすれば、否応なしに熱量がこもってくると思います。
ただ、あまりに長すぎても相手の時間の都合もあるので、下記の内容を長くてもA4一枚で表現するようにしましょう。
・なぜ独立をしようと思ったのか
・独立して何を実現したいのか(社会貢献も含む)
・なぜその商品・サービスでないといけないのか
・その商品・サービスは何を解決するのか
・どの程度の準備をしてきたのか
・周囲の支援をどのように獲得したか
・なぜ今なのか
経営者の略歴等
ここでは、起業する事業の経験があり、事業をきちんとコントロールできることを示すことで、出資者を安心させなければなりません。
例えば、前職で、部品の設計をしていたにもかかわらず、新たに飲食店を始めたいという希望者がきても、不安しか感じませんよね。
自分が出資者の立場であったら、貸すかどうかを客観的にみて書きましょう。
もし、自分で客観的にみるのが難しそうでしたら、周りの人に見せて、どういう反応をするか確認してみましょう。自分の名前を伏せて資料を見せることで、正直な答えを得ることができるでしょう。
自分の前職とのリンクが示せたら、さらに、どのような実力があるのかを示すために数字をもとに自分の実績を記載しましょう。
例えば、下記のようなものが考えられるかと思います。
前職では、飲食店のコンサルティングをしており、社内に300名の同僚がいるなか、担当店舗数30店、月次売上3000万円と営業成績No.1でした。
営業成績No.1をとれた要因としては、飲食店の収益構造を理解したうえで、ブランドの転換を提案するコンサルティングをしたからだと考えています。
基本的に、飲食店へのコンサル内容としては、集客を増やすために、食べログやぐるなび、さらには雑誌への広告などマーケティングがメインとなり、10万円の広告費でより効率よく集客できるチャネルを提案することになります。
現在の〇〇雑誌の集客効率は1%で、飲食店が利用する△△ログの集客効率は3%ですが、固定客化する確率が20%以上も高いのが〇〇雑誌のほうで、LTV(生涯顧客価値)を最大化するのは〇〇雑誌なのでこちらを進めるところからコンサルティングを開始するのです。
しかし、私はこのコンサルティング手法には懐疑的でした。
というのも、そもそも広告費10万円で集客できる人数には限りがあり、MAXでもプラス200人、一人当たりの顧客平均単価を2000円とすると、売上増分は40万円となります。
ただ、店舗の仕入れ原価や販管費を吟味すると、その売上40万円は、営業利益の段階では3.6万円になってしまいます。
我々のコンサルティング費用を外注費として販管費に加えると吹き飛んでしまうような額なのです。
そこで、私は、そもそもの収益構造に手を付け、特に一人当たりの顧客平均単価を5000円まで上げ、業界平均から約6%高い、営業利益率15%を実現する店舗を目指す改革を請け負いました。
実際の実施内容としては、店舗のリフォーム、店主の得意な料理への一点集中、仕入れ先の選定と大量仕入れ交渉を行うことにより、粗利益率が20%改善し、営業利益率もなんとか15%に到達することができました。
損益計算書に現れない店舗のリフォームなどを含めた借入額返済比率もキャッシュフローの20%までに抑えられています。
一部の買掛金の支払いサイクルを遅らせてもらったことが功を奏したかたちです。
結果として、この飲食店主からは大いに喜ばれ、新たな顧客の紹介にまでつながりました。
普段飲食店に通わず、飲食店コンサルをやったことがない私ですら、ここまでかけるのですから、ご自身の経験分野ならもっと書けるはずです。
自分の実績と、なぜその実績が実現できたのか、その背景にはどんな問題があったのか、どのように問題を克服したのか、他と比べてどれだけすごいのかなどを数値とともに示しましょう。
ここでのポイントは、経営にかかわる売上や原価、利益などの構造さらには、マネジメント、現場のオペレーションまで全てを理解しており、だから実績をだせているので、新規事業であっても問題ない、と示すことです。

取扱商品・サービス
自分が取り扱う商品・サービスとその市場分析、マーケティング戦略を説明する項目です。
そもそもの商品が必要とされる理由が明確であれば、セールスポイントも販売ターゲットも記載できるかと思います。できるだけ詳細に説明することを心がけましょう。
販売戦略はどのように商品・サービスを顧客に届けるのかを現在自分の手持ちのチャネルと新しく必要になるチャネルの2パターンで説明したらいいかもしれません。
この項目は、いかに調査で客観的なデータを集めているかを示すパートとなっています。写真などの添付資料も使いながら資料作成しましょう。
市場環境の調査、競合商品の価格帯や特徴の洗い出し、周辺環境の人口動態などのデータを入手しておくと、好印象を与えることができます。
調査資料は外注でよいかと思います。

取引先・取引関係等
ここでは、資金繰りの能力を見られます。
見込み客、仕入先、外注先、さらには人件費の支払額と割合を書いていくことになります。
起業家の20%の倒産理由がこの資金繰りによって引き起こされるので、担当者もここはシビアに見ます。
必ず、資金繰り表を別のエクセルで作成しておくようにしましょう。
というのも、これらの項目をきちんと整理できたら、最初にキャッシュをどれくらい持っておかなければ、黒字倒産するのかがわかり、また、売上が全く立たない場合、何か月会社がもつのかなどの推測が経つからです。
思いつく限りの最悪のケースを想定し、それを乗り切るために、資金繰りという観点から、どのような調整を行うかを説明できるようにしておきましょう。
少なくとも、次のコロナが来た時の対策などは考えておきましょう。
また、事業計画を作成している段階で、仕入先や外注先とは話がついている形にしておきましょう。
ここは不確定にしておく理由がないです。
できれば、計画作成段階で接触済みの販売先と顧客リストを持っておきたいところです。

従業員
従業員が必要な場合、人数を記載してください。人件費にも影響を与え、先のキャッシュフローとも連動するので齟齬がないようにしてください。
お借入れの状況
プライベートの借入の状況を説明する項目です。
住宅ローンや車のローンなど保有するローン全てについて記載してください。
審査の際には、信用情報機関で個人情報を確認することがあります。確実に調べられると思って、漏れなく記載してください。
お金の管理ができる人間かを調べられているので、ここで心証を悪くするのは避けたいです。
必要な資金と調達方法
必要な資金とその資金の調達方法を説明する項目です。
貸借対照表の簡易バージョンとして書かれており、自己資金と借入のバランスなどを確認できます。
自己資金が少ないと、借金が大きくなり、負担が膨らむので自己資金は多めに入れましょう。事業資金の総額に対する自己資金額が33%以上になるようにすればいいと思います。
資金の内訳記載が求められているので、必要資金の最終チェックとして、すべてのコストを書き出しましょう。
起業後に想定外の出費が増えると、倒産確率も高まります、足りないものがあれば、担当者が必ず、突っ込みを入れてくる部分なので、油断しないようにしましょう。
自分で内訳の把握が難しければ、実際に同分野で起業されている方に確認しましょう。
事業の見通し(月平均)
事業収支見込みを説明する項目です。損益計算書をきちんと理解できているかが問われています。
特に、担当者が見たいのは、売上に対して、固定されている費用と変動する費用を、起業家がきちんと理解できているかというところになります。
売上の増加による事務作業量の増加や営業マンの増加を、きちんと人件費に組み込み計算しているかを暗に問うています。
商品やサービスが自動的に売れる業種もありますが、公庫に融資を希望する大半の企業は、商品やサービスの販売に人件費などがかかっています。
そして、この人件費の変動は資金繰りにも影響を与えます。
そうなると、資金繰り表で、販売先から十分な資金回収ができていないと、どのタイミングで人を雇うのか、担当者に詰められることになります。
安易に一年後の売上をたてるのではなく、資金繰り表と合わせながら考えて、売上増加のためのリソースの投入地点を見定めましょう。
また、各項目の数字・比率が業界平均のものと同じなのか、違うのかなども含めて説明できるようにしておきましょう。
市場調査時に数字は一緒に調べてもらうのがベストです。
利益の部分から公庫への返済、税金等の支払い、起業家の生活費を捻出する必要があるので、前もって自分の現在の生活費などを計算しておき、計算した利益で事業運営可能であることを示します。
最後に
事業計画書は日本政策金融公庫のテンプレート項目を深堀していく方法がベストです。
項目ごとの関係性を意識しながら事業計画を記載していくと、中小企業の経営者の苦労がわかってくるかと思います。
特に、時間差で発生する売掛金・買掛金と成長のための投資をうまく組み合わせるのは至難の業だと思います。
一番シンプルな解決策はキャッシュを手元に大量保有することですが、起業初期では難しいので、うまくコントロールしてく必要があります。
時間がかかり優先順位も低い調査関係は専門家を使って処理し、今後の運営の死活問題となるお金の流れについては、起業家自身でしっかり組み立てていきましょう。