起業を考えている人に必要なこと
現在インターネットのおかげで、起業ハードルは一気に下がり、誰もが起業できるようになりました。
そして、その中で、「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門 (講談社+α新書)」という本も登場するほどの起業ブームが起きています。
この本の、ポイントとしては、起業で成功するのは難しく、5%ぐらいの会社しか生き残らないので、起業の代わりに、次の後継者を探している会社を買った方がいいというものでした。
私もこの本を読んで刺激を受け、いろいろ調べていくと、「日本で起業して10年後に残っている会社がわずか5%」という統計は、中小企業白書2006年からの抜粋であることがわかりました。
実はその統計の調査対象に重大なポイントが隠されていたのです。
その調査対象となっていたのが、製造業に限られ、また従業者4人以上の事業所に限定されていたのです。
2017年の中小企業白書では、創業から5年後までの企業の生存率約82%となっており、結局は統計の取り方次第でいかようにも表現しうる数字であることがわかりました。
同時に、業界ごとに置かれている状況が異なり、倒産率にも違いが出ることがわかりました。
製造業は10年後に5%しか生き残れないことが示されたのに、誰がその業種を選びたいと思いますか?
その他の自分が経験したことがない業種も、もしかしたらそのような問題を抱えているかもしれないのです。
私は、会社購入は未知の部分が多いので、自分で起業する以上にリスクがあるとみています。
例えば、自分で起業していれば毎月流れ出る固定費も自分の裁量で即座にとめてしまうことができます。
しかし、購入した会社などは長年の取引関係や見えないしがらみで身動きがとりづらい場合があるのです。
さらに、業界によっては、大手が日本の中小企業の果たしていた役割をすでに海外に外注していることも多く、日本の中小企業が既存商品の新規取引先を探しても、新規開拓できず、売り上げが縮小していっているところもあるのです。
ここで、私が言いたかったのは、会社を買収してはいけない、ということではなく、もし買うなら、業界を分析し、実際に働いてみるなど会社内部の分析も完了したうえで、購入しなければいけないということです。
期待に胸を躍らせて、何とかなると飛び込んでしまう人を見かけます。実際に、何とかなる人もいるのですが、何とかならない人に待ち受けているのは地獄です。
そんな地獄を経験しないためにも、まずは中小企業がどのような理由で倒産しているのか倒産理由についてみていきましょう。
2019年中小企業の倒産理由
中小企業庁が提供している倒産状況の調査資料より、2013年から2019年までの中小企業の倒産理由と倒産数、2019年の各理由の全体に対する比率も付加して表にしましたので共有します。
各項目を説明していきます。
放漫経営
会社のお金を使って、自分の趣味のために、毎晩夜の街で遊んで回るような杜撰な金銭管理を指します。
成功時はこれでも問題になりませんが、業績の衰えだすと、企業存続の致命傷になります。
起業される方、特に、初めから苦労せずに、成功してしまった人に多く見られるケースです。
特にメンターなどがいない孤独な経営者に陥りがちなパターンです。支えあえる経営者仲間を作りましょう。
過小資本
手持ちの資金では、資金繰りがうまくできず、さらに、銀行からの借り入れなども信用上の問題でできなかったケースです。
よく聞く、黒字倒産もこれに含まれます。
利益はでているのに、運転資金や手元に残っている資金が、支払額に対し、不足し倒産するパターンです。
会社の手元資金であるキャッシュフローの流れを理解していないため、このようなことになります。
このキャッシュフローの流れを理解できている経営者は、事前に銀行からの借り入れを行ったり、売掛金の回収を早めたり、買掛金の支払いを遅くしたりするという調整ができます。
キャッシュフローを理解できている人ほど、銀行からいつでもお金を引っ張れるように、日頃からの銀行との付き合いをきちんとしている人が多いように見受けられます。
連鎖倒産
自社の資金繰りをぎりぎりにしており、自社の買掛金などの支払いが、他社の売掛金などの入金に頼っているケースに生じます。
本当は入ってくるはずの取引先からの入金が、取引先の倒産で回収できず、自社の支払いもできず、倒産となります。
これは、与信審査、会社ごとへの与信枠の設定、自社の取引額に対するキャッシュの保有率の設定により解決できます。
既往(きおう)のしわ寄せ
これは、経営状態が悪化しているにもかかわらず、何もせず、過去の資産で食いつなぎ、最終的に倒産してしまうケースです。
一般的に、サラリーマン時代の顧客を連れて独立した人や2代目の経営者に多く見られるパターンのように思います。
何をすればいいのわからないので、何もしない、そうすれば、お金の流出も少なくすみ、まだ会社がもつという安堵感のみが残ります。
次の一手を模索するために何らかのアクションを取らなければ状況は改善しません。
これは、会社を購入する際にも、「既往のしわ寄せ」状態になっていないか、しっかり注意したいポイントです。
信用性の低下
ブラック企業批判や経営陣の女性問題などの不祥事は会社の信用性を押し下げ、銀行からの追加融資の打ち切りや売上減少にもつながり、倒産の引き金となりえます。
特に、退職に関係するトラブルで、退職した社員がネットに嫌がらせの書き込みをするケースもあります。
昨今は労働関係法令が厳しいので、雇用契約に組み込むなど、頭の片隅にいれて行動されてください。足元をすくわれなくて機会を減らせます。
販売不振
販売不振は、なんと倒産理由の70%以上を占める重要項目です。
彼らは、自社商品・サービスが売れないため倒産したと主張しています。
シンプルにいうと、経営陣が販売不振である理由を突き止められず、さらに、それを解決する手段も能力もなかったということになります。
ただ、多くの創業者は日々の現場作業に忙殺されていることが多く、私はそれが原因ではないかと考えています。
販売不振とは、単純な売り上げの問題ではありません。
競合にシェアを奪われてしまったのか、代替商品に市場ごと取って代わられているのかの確認作業に始まり、どのような点でその商品の価値はまだ活かすことができるのか、それとも、もう生産を止め、在庫処分にしなければならないのか。
その上で、会社の体力はどのくらい残っており、新規の事業を育てられる余地はあるのか、ないのか。ない場合、合併・売却の余地はあるのかなどの多岐にわたる経営戦略の話になります。
事業が成長してきたら、手間のかかる作業部分はできる限り外注し、自社の戦略の部分に割ける時間を持ちましょう。
売掛金回収難
売掛金の回収は、経営活動の生命線です。売掛金を回収することで、初めて売上がキャッシュになり、企業活動に使える原資となります。
そんな売掛金ですが、取引先からの回収に手間取ることが多々あります。
単なる入金ミスだけでなく、意図的に支払いを滞らせたり、最初から支払う意思のない詐欺行為や、難癖をつけて支払いを渋る取引先も存在します。
実際、私の知り合いに、発注があった会社に商品を流したら、その後連絡がつかなくなり、売掛金が回収できず、上司に大目玉をくらっていた人もいます。
そのような会社は夜逃げ前の資金確保の目的などで詐欺行為を行っているとの話を聞きました。
また、中小企業だけではなく、個人事業主やフリーランスにとっても売掛金の回収は大きな問題で、フリーランス協会が 2018年12月に実施したアンケート調査によると、回答者の約7割が未払いを経験しているとのことでした。
自分を守るための契約知識の習得や資金的に余裕ができてきたら相手企業の与信調査を行いましょう。
ちなみに、売掛金には消滅時効があります。
売掛金の回収ができないまま時間が過ぎると、時効が来て、請求権がなくなりますのでそちらも頭に入れておいてください。
参考までに下記もご確認ください。
時効1年 時効債務宿泊費用、飲食費用、運送費用
時効2年 製造業、卸売業、小売業の販売代金
時効3年 建築代金、自動車修理費用など
ちなみに、これらの時効を中断させる方法として、支払い請求や売掛金の一部受領があります。
在庫状態の悪化
粉飾決算でよく使われる方法が、在庫の割り増しです。実は在庫を増やすことで帳簿上の利益を増やすことができるのです。(その代わり税金は高くなります。)
銀行からの融資の関係上、利益をより多く見せたい企業は、在庫を積み増す傾向、または、そもそも売れ残っている状況があり、在庫状態が自然と悪化していくケースがよく見られます。
在庫を過剰に抱え込むことで、手元に資金は入ってこないのに帳簿上は利益が出ており、その利益に対して、税金がかかってくることになるので、資金流入はないにもかかわらず、手元からの資金が一方的に流出することになります。
アパレル会社などが在庫処分セールをやっているのは、今後売れる見込みが低い在庫を一斉に処分することで売上原価を高め、利益を少なくし、最終的に節税するためなのです。
だから、在庫処分セールは、割安価格なので、商品の買い時なんですね。
設備投資過大
規模拡大で必要になる設備投資ですが、過大な投資は身を滅ぼします。
一般的に、投資資金は、その設備の活用で回収されます。
そのため、一定期間、投資費用の回収利益が生み出されるようになるまでは設備投資費の返済で資金繰りは圧迫されるということです。
倒産理由のポイントまとめ
事業環境を客観的に見れるポジションに移動する
倒産の80%以上の要因にあたる「販売不振」「既往のしわよせ」は、経営者の事業状態の把握不足によって引き起こされることがわかりました。
経営者のリソースを現場作業に投入ケースが多々見られるので、ある程度売り上げが伸びたら、積極的に外注し、客観的に自社事業を把握できる時間を持ちましょう。
資金繰りを理解する
倒産の10%程度の要因になっている「過小資本」「連鎖倒産」「売掛金回収難」「設備投資過大」は、経営者の資金繰り能力不足によって引き起こされます。
企業の資金繰りにおいて、支払いを販売代金回収よりも先に行わなければならないというのが、基本的な構造になっており、そのため、企業が活動していくにあたっては、自然と資金不足が生ずることは覚えておきましょう。
リスク管理のポイントを知る
その他にあたる「信用性の低下」「在庫状態の悪化」は、経営者のリスク管理能力不足です。
この能力が不足しているので、起業できないというわけではありません。
専門分野が多岐にわたる経営について完璧なることは不可能なので、専門的な分野は、コンサルタント、税理士、会計士、弁護士などに外注して補うことになります。
彼らを使い、どこがクリティカルなポイントになるのかを覚えていきましょう。
起業で必要な資金を把握しよう
自分が起業した場合は、どのくらい資金準備が必要か計算しておく必要があります。
特に、実際に運営する上での、固定費と将来必ず発生するコストへの積立金は倒産に直結するので押さえておきましょう。
どのような事業であれ、予想した売上の半年分のキャッシュは持っているようにしましょう。
先にも述べた資金繰りの問題であったり、売上が予想以上に伸びなかった場合に助けになります。
一度他人の事業計画書でもよいので、眺めてポイントを理解しておきましょう。
資金の調達方法
起業の業種によっては、お金を調達しなければいけないケースがでてきます。
下記の方法が代表的です。
・銀行融資
・補助金や助成金
・出資(ベンチャーキャピタル)
・クラウドファンディング
お金を調達する場合は外部の人へ自社事業を説明しないといけないため事業計画書の作成などの書類作成が必要になってきます。
また、融資を申し込んでも、必ずしも審査に通るとは限りませんし、補助金や助成金にも、要件があり、それを満たしていなければもらえません。
このため、一番安全な方法は、起業に必要な初期資金、そして、事業が軌道に乗るまでの運転資金、生活資金などを事前に用意しておくこととなります。
もし、現段階で起業する業種を決めていない場合、固定費用が少ない分野で挑戦されることを強くお勧めします。
最後に
起業後の事業の運営・維持にはそれなりのリスクを伴うことがわかったと思います。
たとえ、最初は順調であっても大手が競合商品をだしてくることで、シェアが奪われてしまうこともあります。
事業運営において、どのようなポイントにリスクが潜んでいるのかを確認しておきましょう。
また、起業後、売上が落ちてきた時に、このブログの存在を思い出し、事業立て直しのきっかけになればと願っています。