無料から使える全自動のクラウド会計ソフトを武器に、ついにあのfreee(フリー)
が2019年12月東証マザーズに上場しました。
2019年10月実施の株式会社ローカルフォリオのユーザー数推計によれば、クラウド会計サービス主要3社におけるユニークユーザー数No.1の座を獲得しています。
今回は、想定最大市場規模約1.1兆円のシェア獲得に向けて動くfreeeのビジネスモデルについてみていきます。
freeeは、2012年に佐々木氏によって設立され、クラウド会計ソフトを皮切りに今では、人事労務領域等様々なバックオフィスの業務を効率的に管理することができるクラウドサービスも同時に展開している会社です。
特に、無料から使える全自動のクラウド型会計ソフトfreeeは、簿記の知識がなくても簡単に使えるため、個人事業主や中小企業のための会計ソフトとして人気です。
社長の佐々木氏は、Googleで日本およびアジア・パシフィック地域での中小企業向けのマーケティングチームを統括を経験した後、2012年7月にfreeeを設立しています。
freeeの問題解決
では、佐々木氏がfreeeを立ち上げるきっかけ、解決したいと思った問題は何のなのでしょうか。
実は、クラウド型の会計ソフト自体は、freee以前からも存在していました。
しかし、それらの会計ソフトは操作が複雑で、小規模事業者には必要のない複式簿記があったり、請求書や銀行口座の集計が出来ず、手打ちでやり直さなければならないという問題を抱えていたのです。
佐々木氏がGoogle入社以前にスタートアップのCFOを務めていた時に、会計業務のアナログさに問題を感じ、freeeの立ち上げに至った、という経緯があります。
彼が解決した問題は、シンプルで使い勝手がいい会計ソフトを作ったこと、といえるでしょう。これは、ソフトをただ単純化しただけではありません。
「会計だけでなく、業務全体を効率化する」という視点から、会計ソフトの価値を提供していったのです。
UI(画面設計)の利便性向上はもちろん、銀行やカードWeb明細と自動同期して会計帳簿を作成する機能など、時間を取られる手作業の部分をどんどん自動化に置き換えていったのです。
「freee」HPはこちらから
ターゲットユーザ層
日本国内の法人数は約200万社、個人事業主も含めると約600万社にまでのぼります。
その中でも、freeeの主なターゲット層は、毎年国内で新たに生まれる約20万社のベンチャー企業群、そして、事業承継で経営体制が大きく変わった中小企業としています。
そして、国際的にみても、日本における企業のクラウド会計ソフト利用率は15%と諸外国と比べると数倍以上乖離があり、まだまだビジネスチャンスが見込めることがわかります。
現在は、上場、経営者や幹部の交代などの企業の変化のポイントを押さえて製品を訴求する方向性で、個人事業主だけでなく、中小企業にも導入を促しています。
freeeのビジネスモデル
では、無料のツール提供を切り口にするfreeeはどのようにマネタイズしているのでしょか。
実は、無料プランの利用では、データが3ヶ月しか保持されず、青色申告用の決算書の作成機能などが使えないのです。
なので、無料ツールで試してみて導入メリットを感じたらアップグレードしてしようという流れになっています。
無料の印象が強いですが、実際は3か月のお試しプランがついているという認識でいたほうがよさそうです。
プランは2種類あり、個人事業主プラン(980円/月)と法人プラン(1,980円/月)があります。
有料プラン内でのユーザー数は3ユーザーまでと制限されており、ユーザーを追加したい場合は、1ユーザー追加ごとに300円の従量課金となります。
中小企業を対象としているので、このユーザー数で十分なのかもしれません。例外的な会社として、営業マンにも登録させ、請求書や経費精算をfreee内で一括管理できるようにしているというところもあるようです。
また、新たにfreee導入企業向けの資金調達サービスも始め、freee上に蓄積されたデータを活用する金融サービスも強化しています。
会計データを基に自動で資金繰りを予測し、可能性の高い資金調達手段を提案するサービスとなっています。
この点は別記事で解説したBASEのビジネスモデルと被るところがありそうです。
freeeの対策
SaaS(Software as a Service)を使用したサブスクリプションモデルは、投資(システム設計開発、メンテナンスコスト、運営コスト、集客コスト)を月次の会員費で回収していくため、どうしても初期の赤字額が大きくなる傾向があります。
2020年6月期の着地でも30億円程度の赤字が予測されており、緻密な経営のかじ取りを求められます。
先日、収益性を強化するため、個人事業主向けプランを値上げすることと、低価格帯の法人向けプランの一部機能を制限し、上位プランへの移行を促進することを発表しています。
今後のfreeeの動向を見るため、収益に直結する3大指標とそこで行われている施策についてみていきましょう。
1.新規顧客獲得
ネット広告やCMだけではなく下記のようなユニークな取り組みも同時に行っています。
a.Amazonや書籍を活用
Amazon内で『会計ソフト』や『確定申告』というキーワードにかなり需要があるということに目をつけ、スタートガイドを販売。面白い取り組みですね。
b.外部連携の促進
iPadを利用したPOSサービスのユビレジなどとの連携や、自社でAPIも公開し、連携しやすい環境を整えている。
c.クレジットカード会社との連携
請求書明細を送付する際にfreeeの案内を同封。
2.既存顧客のアップグレード
特に、見やすさ・使いやすさを追及するUI(画面設計)や新機能の強化・開発に注力しています。
例えば、よりシンプルな料金表を導入することで、法人向けで、無料会員化率を28%増加、有料会員化率は34%も増加させています。
また、サイト内での動画導入により、法人向けで、無料会員化率が17%増加、有料会員化率も27% 増加させています。
3.解約率
サブスクリプションモデルで一番の大きな問題である解約率に対しては、「freee上でどれだけ手作業が発生してしまっているか」を指標化し、改善するアプローチをとっています。
手作業が発生している部分は、自動化するサービス開発を進めているようです。画期的ですね。私も煩わしい手作業は嫌いなので、利用者に寄り添った素晴らしいサービスだと思います。freeeの詳細はこちらから。
freeeの競合関係
freeeの競合として、Moneyforwardがあげられていますが、ターゲットが異なるためこの比較はあまり意味をなさないかもしれません。
というのも、Moneyforwardは個人向けの家計資産管理ツールの提供がメインで主に企業に対してサービスを提供するfreeeとは客層が違うのです。
どちらかというと、競合として設定されているのは、弥生会計になります。
会計ソフトの領域では、1978年に設立された古参の弥生会計のシェアが57.0%で最も多くなっています。
弥生会計は一時期ライブドアホールディングスの傘下にあったものの、投資ファンドの手にわたり、最終的に今はオリックス株式会社がの下にいるソフトウェア開発会社です。
弥生会計もfreeeからの浸食を阻むべく、クラウド会計ソフトを2015年からリリースしましたがまだ導入数は伸びていない状況です。
以前から提供されている弥生会計ソフトには、金融機関ウェブ明細との連携・同期方法はできず、外部帳簿サービスの「Zaim・MoneyLook・Moneytree」などを別に利用する必要があります。また、請求書の作成機能もありません。
金融機関との同期は、freeeの場合は対応している銀行は1900以上あるのに対し、弥生ソフトは限定されています。
つまり、ソフトとして単独の形態で提供している分、連携などの機能の面で大幅に劣ることになります。
今後新規で弥生ソフトを購入する方は少なくなるではないかとおもいます。購入するとしてもクラウド版の弥生会計ですが、その場合は、機能としても最先端で使用者も多いfreeeを選ばれる方が多いように思われます。