近頃、「新しいビジネスモデルを模索しているんです。」という話をよく聞くようになりました。
既存市場の収益に、限界が見えており、新しい市場にトライしようという多角化の動きが広がっているように見受けられます。
ただ、そんななかでも、「どんなビジネスモデルを模索されているんですか」と聞くと、いろいろな答えが返ってきます。
そこで、今回、そもそものビジネスモデルとはどういう風に生まれ、何の実現を目的としているのかをHarvaerd Business Reviewを参考にしながら解説していきたいと思います。
ドラッガーのビジネス理論
Harvaerd Business Reviewの中には、ビジネスモデルについての様々な捉え方が示されていますが、その中でも1994年にピーター・ドラッガーが投稿した論文が、ビジネスモデルのコアとして多くの人に引用されています。
ちなみに、ピーター・ドラッガーはビジネスモデルという言葉を使っていません。
ピーター・ドラッガーが彼の理論の中で述べたことは、「how to do(方法)」ではなく、「企業は、何をすべきで、何をすべきでないか」ということです。
ドラッガーが生きた時代には、今の企業が打てる施策がほぼ同じくらいにあったのです。それでも、1970年代の米国は不況を経験しました。
それは、なぜか?
企業の資源は有限であり、「何をすべきで、何をすべきでないか」が明確になっていなかったからです。
ドラッガーの理論では、企業が「顧客と競争相手の価値観や行動」「テクノロジーとそれに伴う社会変化」「自社の長所や短所」に基づいて意思決定していることが、顧客から選ばれ、収益が成り立つ前提であるとしています。
ドラッガーが述べた内容にもう少し踏み込んでいきましょう。
彼が注目したのは、一時期米国経済を支配していたともいえるGeneral MotorsやIBMの不調でした。ドラッガーはそれらの企業のビジネス理論は時が経つにつれ、廃れ機能しなくなっているのだといいます。
どうせ、大企業の官僚化、傲慢さが問題になってきたんでしょう、と思われるかもしれませんが、それは、間違いです。
General MotorsやIBMも一度は波に乗り遅れるものの、優位な資本力を背景に軽々と波を後追いすることができました。そして、再度、波の頂点に立つことさえできたのにも関わらず、その後、失墜していきました。
ここまで聞いたら、ドラッガーが提唱するビジネス理論について、少し気になってきた方もいるのではないでしょうか。
彼はビジネス理論には3つの要素があるといいます。
1.組織環境:社会とその構造、市場、顧客、テクノロジー
2.組織の使命:例えばGMの場合「地上の電動輸送機器」のリーダー
3.使命を達成するためのコアコンピタンシー:
例えばAT&Tの場合「会社が継続的に料金を下げながら、サービスを継続的に改善できるようにする技術的リーダーシップ」
これらをGeneral MotorsやIBMも持っていたはずです。ただ、それが時代が経つにつれ時代遅れになってしまったのです。
そして、ドラッガーは遅かれ早かれ、すべての企業のビジネス理論は時代遅れになるといいます。
その根拠として、組織は前例に倣って動く習性があるため、現状にそぐわない不必要な項目に対しての支出比率が増えていき、市場、テクノロジー、コアコンピテンシーが劇的変化した際に、機会を捉える必要最低限のリソース(特に人材)が枯渇するからとしています。
また、変化の兆候が大抵の場合、顧客以外から始まるため、気づいたときには、手遅れになっている場合が多々あるとも述べています。
では、どうすればよいのか?
答えは、組織に、体系的な監視とテスト機能を組み込み、常に更新し続けること、としています。
ドラッガーのこの理論がベースとなり、そのあとのビジネスモデルの思想に発展していくのです。
マグレッタのビジネスモデル
このドラッガーの理論をベースとして、ジョーン・マグレッタが2002年に発行している論文「Why Business Models Matter」で語ったビジネスモデルについてみていきましょう。
まず、彼女は、ビジネスモデルという単語は、様々な構成要素をテストし、モデル化することを可能にしたパソコンの普及とともに広がったといいます。
そもそも、一昔前の事業の成功とは、設計や予測よりも、偶然により引き起こされるものだとしており、昨今の技術革新が、事業の成功を、シミュレーションにより予測可能ひいては、人工的に創造可能にしたとしています。
そして、今やどの成功企業にも不可欠なものがビジネスモデルだと述べています。偶然に頼っていては潰れてしまう可能性もありますからね。
彼女はバリューチェーンを重要視しており、成功するビジネスモデルには、二つの領域から生み出されるとしています。
一つ目は、設計、原料の購入、製造など、「何かを作ること」に関連するすべてのアクティビティから。
二つ目は、「何かを販売すること」、つまり、顧客の発見と到達、販売の取引、製品の配布、またはサービスの提供、に関連するすべてのアクティビティから。
最終的には、発見したビジネスモデルも退化してしまうので先のドラッガーを引用し、ビジネスモデルを更新させ続ける必要性を説いています。
さて、ビジネスモデルの論文を見ることでが、ビジネスモデルはどのようなものであることかはわかってきたかと思います。
ただ、結局どのようにビジネスモデルを作ればいいのか、または、探せばいいのかはさっぱりわからないままですよね。
なので、今回は皆さんのビジネスモデルの参考になるようなツールを紹介したいと思います。
ビジネスモデルキャンバス
それは、今流行りのビジネスモデルキャンバスです。
ビジネスモデルキャンパスは、簡易的にビジネスモデルを可視化するツールです。
使いどころとしては様々あり、新規事業を立ち上げる際、ターゲットとなる領域を事前にシミュレーションし、問題点を洗い出したり、既存事業の強化や次の打ち手を確認するために使うことができます。
また、出資を募る際など、自社事業を知らない銀行・投資家へのプレゼンなどで、最初に全体像を視覚的に示せることは、聞き手の理解を助けてくれます。
ビジネスモデルキャンバスは、それぞれの要素をどう考えていくかの思考があってはじめて役に立つので、各項目の考えるべきポイントを下記に解説していきます。
ちなみに、キャンバスの左上部が内部要素(組織体制・マネジメント)、右上部が外部要素(マーケティング)、下部が収益・コスト構造を表しているので、9つの項目が多すぎてプレッシャーだと感じた方は、3つに分けて考えてください。
分析順序は、各人の好みがあるかと思いますが、今回は私が分析する場合の流れで記載していきます。
1.顧客セグメント
なぜ、顧客セグメントから始めるかというと、そもそも事業が成り立つ市場があるのか、どのような客層がいて、どれくらいの規模なのかを真っ先に確認する必要があるからです。
そのうえで、現在その市場でのシェアはどうなっているのか。企業ごとに得意とする顧客層は異なるのか。自分たちが狙うべきターゲットは誰なのか。どこから切り崩し、どう拡大していくのかを記載します。
大事だと思う部分は数字も一緒につけてあげると、再度見直したときに計算しなおしやすくなります。
2.顧客との関係
「顧客との関係」は「価値提案」にも影響を当てる大事なパートで、ここで企業の戦略に大きな違いが出ます。
例えば、2つのスニーカーショップの例を考えてみましょう。
A店は、顧客に対して「自由に」「格安で」「最高の品揃え」を提供することに価値を感じているため、店舗に従業員はおらず、決済も機械で自動で行われます。
一方、B店は、顧客に対して「靴の品質」「最高の購買体験」を提供することに価値を感じており、訓練された従業員がなるべく顧客とマンツーマンで話せるように従業員を多めに配置し、初回料金の値引きやポイントを活用して、顧客の固定客化を促します。
どちらの顧客との関係を選ぶか、選べる資本があるかが鍵となってきます。
3.チャネル
顧客に商品・サービスを提供する経路または自社商品を知ってもらう経路は今どのようなものがあり、顧客との関係を鑑みるとどのように変えていかなければならないか。追加チャネルを開くためのコストはどのくらいかかるかなども同時に検証します。
4.キーアクティビティ
自社のビジネスモデルを実現するために不可欠な活動のことです。企業の資源は有限であり、すべての活動に資源を投下しては、企業体力が持ちません。
どの部分が自社でやる必要があり、どこを任せていいのかを判断して、事業の流れの大部分をアウトソーシングしなければならないのです。
5.キーリソース
ビジネスモデルを実現するために必要な資源です。
キーアクティビティを回すために必要な免許、諸資格・能力を持った人材、そして、それらの全てを支えられる金が必要となります。もし調達できなければ、事業が成り立ちません。
また、キーリソースをうまく使うことで、参入障壁の構築、競合の排除ができるので、計画的に自分の有利になる環境を作っていく必要があります。
6.キーパートナー
ビジネスの大部分は他社にアウトソーシングすることになるので、信頼できる外部パートナーが必要となります。
自分のビジネスモデルに共感してくれ、一緒に成長していってくれるパートナーを見つけることが大切になります。
ビジネス計画の段階から一緒に組み立てることで、同志のようになり、立ち上げ初期の厳しいときに利益率や決済期間の長さを調整してくれるなど、裏から事業をサポートしてくれることもあります。
彼らのおかげで、全力で自社のキーリソースに投資できるのです。
7.提供価値
上記の項目が埋めることができたら自ずと提供価値は見えてくるでしょう。
ここでの価値は商品・サービスの機能ではなく、ビジネスモデル全体の価値です。
例えば、欠品を起こさないことも価値になります。夏になると、スーパーでお水がよく欠品になっているかと思います。顧客にとっては、重たい荷物を持って、お水のために、スーパーをはしごしたくはありません。
もし、スーパーが欠品を起こさない工場をパートナーにできていたとしたら、それは顧客に対する提供価値になるのです。
さらに、新しくHPサイトをつくり、宅配注文、取り置き注文を可能にすることも新しい価値となるのです。
この提供価値を考えるには、自社のビジネス構造だけでなく、世間のビジネスの流行や成功事例などを把握しておかなければならず、他の項目に比べると難易度が高くなります。
8.収入の流れ
収入の流れを計算する際には、顧客が商品購入に至るまでのステップをまず分解し、そのステップが次のステップに行く際の確率を計算して、他社と比較しましょう。
そうすると、自社の強みと弱みがわかり、どこのステップ移行部分を強化したらよいのかわかります。
また、確率ですべてのステップを表せると、目標設定が立てやすく、マネジメント層も、現場もやるべきことが共有できるので、無駄な軋轢もなくなり、社内の雰囲気が良くなります。
9.コスト構造
投資・企業案件で見落としがちな今後発生するコストもきちんと概算をたて積立を行いましょう。
また、各コストはすべて比率で表し、売上推移とあわせてどのように変化しているのか、それは意図したものなのか、意図していないものなのかは注意するようにしましょう。
上記のポイントを参考にして作成するだけで、より深いビジネスモデルに到達することができるかと思います。可能であれば、他のサイトとも比較して、自分に一番合ったやり方・考え方を選び自分のスタイルを確立しましょう。
基本のビジネスモデル10選
ビジネスモデルキャンバスの構成を理解したら早速身近なビジネスモデルをキャンバス上に表現してみましょう。
ビジネスモデルには、10の基本パターンがありますので、そちらを下記で紹介します。
1.物販型
製品やサービスを開発・製造し、顧客に提供するモデル。顧客に対して、製造工程で付加価値をつける。
2.小売型
自社では、製造を手掛けず、メーカーから仕入れて販売するモデル。消費者に対して、便利さ・品揃え・コストで付加価値を提供する。
3.広告型
空間を媒体にして、商品やサービスを宣伝するモデル。顧客に対して、新鮮な情報・お得な情報を届けることで付加価値を提供する。
4.卸売り型
製造メーカーと小売店を仲介するモデル。小売店に対して、便利さ・品揃え・コストで付加価値を提供する。
5.レンタル型
物質としての消耗がない特許や権利、または物質として複数回利用可能なレンタルDVDなどを取り扱うモデル。特許や権利は、使用者に独占的なビジネス機会という付加価値を与え、複数回利用可能な物質は、品質に対して割安価格という付加価値を与える。
6.消耗品型
ハードウェア・本体商品を低価格で販売し、ソフトウェア・部品・材料などを追加で販売することで利益を確保するモデル(例として、剃刀の刃が有名)。消費者に対して、小さな初期投資で商品・サービスに挑戦できるという付加価値を与える。
7.サブスクリプション型
継続的に商品・サービスを利用する権利を販売するモデル。利用者に対して、初期投資の小ささ、利便性、割安なコスト、という付加価値を与える。
8.マッチングサービス型
商品・サービスを提供する側と利用する側を仲介するモデル。利用者に対して、本来かかるであろう時間的コスト・金銭的コストを削減するという付加価値を与える。
9.フリーミアム型
無料商品で集めた一部ユーザーに対して、高性能な有料版を提供するモデル。利用者に対して、便利さという付加価値を与える。
10.直販型
メーカーが直接最終消費者に販売するモデル。消費者に対して、割安なコストという付加価値を与える。
各ビジネスモデルに対して、一つ答えとなるビジネスキャンパスを最初に作っておくと、気になる企業が出てきたときに比較することができて便利です。ぜひ挑戦してみてください。
ビジネスモデル事例集はこちらからご確認ください。